先日、父が亡くなりました。相続人は、母と兄と私の3人です。
父の遺産は、両親と兄が同居していた土地建物のほかに
少し現金があるだけです。
父は、母の生活費の面倒をみるとの負担付きで、
その土地建物を兄に遺贈する旨の遺言を残していました。
しかし、兄は一向に母の生活費を負担しようとしません。
相当の期間を定めて生活費の負担の履行を催告し、
期間内に履行がなければ、
家庭裁判所に遺言の取り消しを請求する。
遺贈では、受遺者に法律上の義務を負わせることができます。
ただし民法には、負担の負い方について若干の規定が置かれています。
負担付き遺贈を受けた者は、遺贈の目的物の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を負います。
また、負担付き遺贈の目的物の価額が、 相続の限定承認や遺留分減殺請求権の行使によって減少したときは、
その減少の割合に応じて、負担した義務を免れます。
負担付き遺贈を受けた者が、後に予想を超えた過大な負担を負うことがないようにしているのです。
また、受遺者が遺贈の放棄をしたときは、遺言者が特別の意思表示をしていない限り、
負担の利益を受けるべき者が自ら受遺者となれます。
負担付き遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めて履行を催告し、
期間内に履行がなければ、遺言の取り消しを家庭裁判所に請求することができます(取消請求権)。
この取消請求権が行使されると、遺贈の効果が消滅し、 その遺産は相続人に帰属することになります。
しかし、もともと負担のついた財産のため、その場合は、相続人が負担を負うと考えるべきです。
負担付き死因贈与(贈与者が死亡することで、負担を条件に贈与契約されることです)にも、
遺贈に関する規定が準用されますが、どこまで準用されるかは別途問題になります。
たとえば遺贈であれば、遺言のルールにしたがい、いつでも撤回が可能であるし、
後に抵触する遺言がなされれば、その限度で撤回したものとみなされます。
しかし負担付き死因贈与の場合には、
贈与者の死亡前に負担の履行期が到来することもあり、
その場合にも撤回が自由とすると、既に負担を履行した受贈者の保護が図れません。
そこで、裁判例では、負担の履行状況にも関わらず
負担付き贈与契約の全部または一部の取消をすることが
やむをえないと認められる特段の事情がない限り、
遺言の取り消しに関する規定は負担付き死因贈与に準用されないとされています。