妻が亡くなりました。私たち夫婦には子がなく、
妻の遺産については、私と妻の両親とで遺産分割することになったのです。
しかし、よくあることだと思いますが、
便宜上、妻名義にしておいた遺産の中には、私の預金も含まれています。
この預金について普段あまり仲のよくなかった妻の両親から、
「妻の遺産なのだから分割せよ」と言われています。
預金が遺産に属しないことを認めない場合には、
遺産確認の訴えを提起する。
近頃は預金口座開設時における本人確認が厳しいですが、
夫婦間、親子間などについては、自分名義ではなく、夫が妻名義、
親が子名義で預金口座を開設することは珍しくありません。
預金のお金を出した者(出捐者と言います)と預金名義人が異なる場合、
いずれが預金者であるとされるのかは、「出捐者が真の預金者であるとする考え方」とがあり、
裁判所は「出捐者が預金者であるという考え方」に立っています。
この裁判所の考え方には、名義以外の出捐者は外部からは窺い知れないという批判もありますが、
事例の場合に、仮に、本当は妻の預金なのに便宜上、夫名義にされていた場合は、
妻の両親が「名義が夫だから仕方がない」と思えるのでしょうか。
裁判所の考え方にしたがえば、事例の場合には、妻名義の預金は夫のものになります。
夫としては、まず自らが出捐者であることを説明して、
それでも妻の両親が納得せずに遺産分割を執拗に迫ってきた場合には、
遺産分割の調停ではなく、「遺産確認の訴え」を起こすことになります。
遺産確認の訴えとは、遺産分割の前提問題として、そもそも、ある特定の財産が
遺産の範囲に属するか否かを定めるもので、これは訴訟で決すべきものです。
そして、訴訟で被相続人の遺産に預金が含まれないと判断されれば
遺産分割はこれを前提として行われます。
なお遺産確認の訴えを提起しないまま、遺産分割をすることは可能ですが、
分割の決定には、その分割された財産が本当に遺産に属するのか、ということまで確定する効力
(これを「既判力」と言います)はないため、あとで遺産の範囲が争われる可能性があります。
たとえば、遺産の範囲について、A、B、Cの3人の相続人においてAとBのみが争っていて、
Cは特段争わない場合であっても、AまたはBは、相手方のみならず、
Cも被告として訴えを提起しなければなりません。
遺産の範囲は相続人全員の間で統一的に確定されなければならないからです。