父が亡くなりましたが、相続人である私の姉は遺産の中の株式を
「放っておくと値下がりする」と言って処分しようとしています。
しかし姉の夫は多額の借金を抱えていて、
口実をつけて遺産を現金化したいだけなのです。
遺産分割の審判を申し立てた後(または同時に)、
審判前保全処分の申立てをする。
株式を売却するとしても、本来は相続人全員の合意がなければ売却できないはずですが、
実際には、上場株式などはインターネットや電話などで簡単に売却できてしまいます。
このように遺産分割が行われる前に遺産が処分され、相続人の借金返済に充てられてしまった場合などには、
ほかの相続人が後日、処分行為の効力を争ったところで、
お金のない相続人からは結局処分代金を返してもらうことはできません。
結果的にほかの相続人の相続分が害されてしまうことになります。
このような事態を防止するために、「審判前の保全処分」という制度を利用することが可能です。
この制度を利用すれば、勝手に遺産を処分しそうな相続人がいた場合には、
ほかの相続人はその相続人を相手方にして、仮差押えまたは処分禁止の仮処分などを申し立てることができます。
事例では株式の処分を禁止する仮処分を申し立てることになりますが、
そのためにはまず遺産分割審判を申し立てることが必要です。
そして、処分されそうな株式を次女(申立人)が相続する蓋然性(可能性)が高いことを示す資料と、
姉(相手方)がそれを処分するおそれが高いことを示す資料とを用意して、家庭裁判所に申し立てることになります。
なお、いきなり審判を申し立てるのではなく、まずは調停で話し合いによる解決を希望するケースも多いでしょう。
その場合に遺産の保全処分をしておきたい場合は、
審判前保全処分と同様に、「調停前仮処分」という制度があります。
しかし、調停前仮処分は強制力がないことに加え、
今から調停で話し合いをしようとしているときに仮処分を申立てることは、
円滑な話し合いを阻害することにもなりかねないため、実際にはあまり利用されていません。
実際に遺産分割審判の申立てをする際には、
双方に弁護士が代理人としてついている場合が多いと思われます。
このようなケースでは、あえて審判前の保全処分を申し立てなくとも、
そのような遺産処分行為をしないよう、
相手方の弁護士が事前に依頼人をきちんと説得することが通常であり、
またそうすべきでもあるでしょう。